教師として「学校に行きたくない‥」という生徒に「どのように接していくのが正解なのか?」難しい課題です。
この記事では、実例を通して「学校に行きたくない」と、部屋に閉じこもった生徒の対処法についてまとめました。また、混乱する保護者の支え方についても解説しています。
ここでは、不登校に至らずに済んだ事例です。また、不登校生徒を抱える母親への接し方がわかる記事です。大切なことが納得して理解できるように工夫しました。
私は公立中学校の元校長です。現在、今までの経験を伝えることで「子育て中の親御さん」や「先生方」を応援する「ワダチブログ」を運営しています。
この記事の特徴は、学校ではあまり重要視されない言葉「一般的理解」の大切さがわかります。みなさんのお力になれたら幸いです。
不登校の中学生男子実例支援策!「行きたくない」訴えに実例で解説
ご紹介するケースは、母親の早朝の学級担任への電話から始まりました。
先生、大変です。〇〇が自分の部屋にカギをかけて、出てこないのです。もう学校に行きたくないと言っています。何とかしてください。
母親の混乱した様子が、声から感じ取れました。激しく動揺しています。
1 中学2年生男子生徒への「学級担任」の生徒理解からの推測
- まじめで、教室では物静かな生徒です。「怠けたくて、登校が面倒で学校に行きたくないと反抗している状況」とは、到底考えられませんでした。
- 「何が原因か不明、心当たりが全くない」しかし、日常の学校生活の中で「本人にとっての苦痛がずっと続いていた現状があったに違いないと、推測しました。
- まじめな性格の生徒が「自ら登校を拒否した」のですから、最高レベルの緊張した状況ではないかと考えました。
- 今朝、突然「プツン」と、緊張の糸が切れ、自室に籠ってしまったという理解から、初期対応を考えました。
2 学校に行きたくない中学生の初期の対応方針を決める
1つ目、生徒本人の現在の緊張を下げる。そのためには本人の「学校に行きたくない」という今の現状を、肯定的に認めることにしよう。
2つ目、母の現在の緊張を下げる。そのためには母親の心情を一般的な理解から推測すると、「学校を休むなんて信じられない」「今すぐにでも登校させたい」この思いが強いのではないかと考えました。
その思いを受け止めると同時に、学級担任の考え方と方針を理解してもらい冷静な対応を求めよう。
実際の対応例です。
- 直ちに、家庭訪問をしました。
- 本人には、無理に会わない。(担任に、会いたくもないだろう…という生徒理解)
・会えないことを想定していたので、家庭訪問前に事前に手紙を用意。
生徒本人にとって、最悪な今の現状を、「学級担任は肯定的(無理ないこと)に理解していること」を伝える手段にとして「手紙」を活用しました。
その中で、登校への目安を提案してみました。(決定は本人次第)
3「方針=生徒理解」を踏まえた手紙の内容概略
持参した手紙の文面です。
学級担任のねらいは、「自分自身で復帰への前向きな見通しをもたせたい。」今日のダメな自分を、近未来に登校することで挽回できるという考え方をさせたいと思いました。
今すぐではない、近未来の2日後なら「大丈夫、自分はできる」と感じてもらえるのではないかと考えました。
不登校の中学生男子実例支援策!「学校に行きたくない」に混乱する保護者への寄り添い方
実際の対処法 家庭訪問時のようす
家庭訪問直後、母親は
先生が来たよ!!(大きな声で、2階にいる子どもに声を掛けた)
先生が来ているよ。はやく来なさい!!●●さん。
(何が起きているか、受け入れられないようで、必死でした)
生徒の緊張はピークになっています。私の言動に敏感になっているかもしれません。もしかしたら。自室で「私の言葉」に聴き耳しているかもしれません。…これ全部、一般的な理解です。
お母さん、大丈夫です。呼ばなくていいですよ。ちょっとお話しましょう。
(生徒本人も聞いているかもしれないことを前提に。ハッキリと自信をもってこう言いました。要約すると)
お母さん、さぞかし驚かれたことでしょう。ご心配ですよね(共感的理解)
まじめな息子さんが、お母さんに逆らって「学校に行かない」って、話している現状。お母さんこれ、怠けで「休みたい」と言っていると思いますか?
●●さん、とてもまじめな生徒です。
私は、怠けじゃないと思います。(担任の判断、現状理解)
ずっと悩んでいたのだと思います。何か原因や理由があるのだと思います(一般的な理解)
担任の私は、全然気づきませんでした。申し訳ありません。
お母さんは、思い当たること、ありますか?(情報収集、お母さんも思い当たることはなかった)
真面目な●●さんのことだから、今学校を休むことは、相当な勇気をもって「意思表示をして、閉じこもっているのだ」と、私は理解しています。
部屋の中にいても、とても緊張していて、休んでも休めていない状態だと思います。
だから、ここは今日無理をして、学校に来させるより、本人の悩んでいることを解決することを第一に考えませんか。(方針の提案、理解の上の同意を求める)
(具体的な提案)私は、今、無理に会わないほうがいいと判断して「手紙」を書いてきました。お母さん、読んでください。この方針で様子を見ませんか?
最後にお願いです。お母さんも緊張と不安で心が乱れていると思います。お察しします。
しかし、お母さんの動揺は、真面目な●●さんにも伝わります。それは本人には、よくないです。
お母さんは、ご自身の心を整理して、
無理にでも明るく、「平気、平気。こんな時もあるから、ゆっくりしてまだがんばりなさい」と、
こんな感じでやっていただけないでしょうか?
お母さんの緊張した表情や気持ちが、本人に写らないようにお願いします。
(共感的理解を示しながらも、方針を丁寧に説明して納得してもらった)
私が帰った後のことです。こんなふうにやっていただけますか。(行動を提案、母親に自己決定させる)
「先生、帰ったよ。風邪ひいたと、みんなには言っておきますって、話してくれたよ。大丈夫だって。」
「心配ないって、今日はゆっくりしなさい。って、話してくれたよ。よかったね。
先生から手紙を預かったから、あとで読んでおきなね」
無理にでも、明るく話してください。
手紙から、私の考え方と
お母さんが、「すぐにも学校に行きなさい」という考えではないと分かれば、きっと落ち着きを取り戻すと思います。そうすれば、部屋から出てきますから。
「先生からの手紙、何が書いてあったの?」って、聞いてください。
(コミュニケーションのタネ)本人との会話に、つなげてください。
実際、金曜日の朝の会、●●さんは登校しました。その後、不登校にはなりませんでした。
不登校の中学生男子実例支援策!「学校に行きたくない」訴えに子と親に信頼される対処法 成功例ですか?
私がこの事例を紹介したのは、たまたまの成功例だったからではありません。
そもそも、これって成功例ですか?
生徒が「再登校する」で、すべてがよしとはならないですよね。
生徒が休むことなく登校すること = 成功ではありません
これが私の考え方です。続きをお読みください。
母親の悩みの本質
私が、みなさんに伝えたいことは、その後ことです。
●●さんのお母さんから、
学校での様子を心配する連絡は、その後一度もありませんでした。
この事実を、皆さんに知っていただきたいと思いこの記事を書きました。
お母さん悩みの本質は・・・わが子が急に「学校にはもう行かない」と、言ってきたこの事実に対する、
お母さん自身の不安と恐怖(ずっと休み続けるの?!)が心を 強烈に締め付けている。
…そのあとに、本人悩みの解消という位置づけです。だから、
生徒の登校した事実とともに、お母さんの緊張は急激に緩み、「心の底から、ほっと」したことでしょう。
生徒本人の悩みの本質は・・・学校での原因となる出来事。その解消が、生徒の一番の関心ごとです。
つまり、母親の立場からすれば、「わが子が学校にはもう行かない」という事実は、受け入れがたい衝撃的な出来事なのです。
もちろん、本人の悩みの解消も心配ですが、一番は「わが子が学校に行けない」事実なのです。(そのような傾向があるということです。これが、一般的な理解です)
「学校に登校してもらいたい」「わが子が、学校に行きたくない、行けない等、ありえない現実」、この母親の締め付けられる心情を慮れるか!(ここが一般的な理解です)
だから、本人の登校とともに、母親の最高潮の緊張とストレスは、急激に解消されたのです。
このような一般的な理解があるからこそ、家庭訪問時に「母親への共感的な理解」のもとに、母親への適切な助言ができるのだと思います。
私の結論です。
不登校になった母親・父親の感情の揺れには、「学校に行けないという事実」が衝撃的であり、その事実に打ちのめされる感情があることを、一般的理解として心得ておきましょう。
また、親は子どもの「行けない理由」にも、もちろん関心がありますが、
登校できないことによる、目先にある「学習の遅れ」等に、気持ちが流れる傾向があるのです。
共感的な理解が重要と言われますが、何をもって共感するのか、それには、ある程度の一般的な理解が必要になってきます。
学校に行きたくない!不登校になった母親の心情の一般的理解とは?
実践練習です!
ある日突然、学級のある生徒が「学校に行きたくない」と言い出し学校を休みはじめました。
母親からは、初めの一週間は「体調の悪い」という連絡でした。
2週間目から、母親からも「理由も言わず部屋に閉じこもっている」との相談がありました。急ぎ家庭訪問をしましたが、生徒本人とは会えません。そのまま現状で3週間目に入りました。
お母さんと、2者面談をします。面談前に、こんな状況のお母さんの気持ち(悩みや不安・辛さ等)や立場を想像してください。
ここでいう「一般的理解」とは、
「こんなことも考えられる、こんなことも、あるかもしれない」といった(母親の立場や心情に思いをはせる推測レベル)理解です。
さあ20個ぐらい、challengeです。
こんな心情に陥っていることもあるかもしれない…一般的な理解が大切
1:はじめは怠けかと思って叱ったが、激しい抵抗にあい面食らった。
表情が日に日に暗くなり、ただ事ではないと感じて胸が締め付けられる。
2:わが子の将来が不安になり、極端に気分が落ち込んでいることが自覚できる。
3:睡眠不足、よく眠れなくなった。食欲もわかない。子ども部屋の物音に敏感になった。
4:激しい抵抗で、会話すらできなくなった。子どもの顔色を、うかがっている自分が嫌になる。なさけなくなる。
5:勉強の遅れが気になる。高校進学できるだろうか。
6:子どもから、「母親のせいだ」と攻められた。自分の育て方を、自分で攻めている。
7:不登校関連の本を読みあさっている。様々な情報に戸惑っている。
8:自分の健康が心配、職場に行っても頭から離れない。24時間、靄がはなれない。
9:誰にも会いたくない。人目が気になり、外出もしなくなった。
10:知り合いのお母さんからの助言が、上から目線に感じ不愉快になった。
11:兄弟姉妹がいる場合
いつ「自分も行きたくない」と言い出すかとおびえている。
兄弟姉妹が「自分も行きたくない」と言い出し絶望した。
12:気持ちが一人にいってしまい、他の兄弟姉妹に申し訳ない。
他の兄弟姉妹に、気持ちをぶつけてしまい自己嫌悪になった。
11:兄弟ケンカで、本人にきついことをズバズバ言っていて、気が気ではない。
13:姑から「育て方が悪い」「甘やかすから」と責められた。
姑・親戚が育て方に口を出してきた。
14:夫の協力が得られないどころか、育て方を責められた。
夫婦喧嘩がたえない。会話が減り、夫の帰りが遅くなった。
15:夫や姑の視線を感じ、家に居場所がない。家にいると息が詰まる。甘い親だと思われているだろうと思う。
16:欠席の連絡がつらくなった。担任からの電話連絡にどうこたえていいのか、わからない。担任を避けている。
電話が鳴るのが怖い。先生と会話を避けたいと思い始めた。
17:学級担任と相談したが、「学校では元気に生活しますよ、送り出してくれさえすれば…お母さん頑張ってください」の言葉に、先生は何もわかっていない感じがして落胆した。
18 :学校側と相談するが、子どもを育てたことのない先生には、私の苦しみは絶対理解できないと思う。
19 :PTA活動等、出席しないようになった。
20:毎日、先生が心配してくれて、本当にありがたい。親として何もできず、先生に申し訳なく、心苦しい。私もしっかりしなくは。
以上、ここまでが不登校生徒を抱える母親なら、「もしかして、このような状況、心情になっているかもしれない」と、いう一般的理解です。
ここまで、読まれてどのように感じられましたか?
なるほど、「そのようなケースに陥っている可能性もあるかもしれない」と、感じていただけたでしょうか。
これが共感的な理解の前提としての、一般的理解の大切さです。
一般的理解を整えると、母親への心の構え方がしっかりとして、共感的理解は自然と深まります。
「学校に行きたくない」わが子を想う母親との効果的面接
1 母親との面接の理想のゴール像を設定します。母親の感情に注目してください。
例えば、
目指すゴール像(面接直後の母親の心情がこのようになっていることを目指す)
一般的理解でお母さんの疲弊している心情に寄り添うことで、
この先生となら、「私の立場や気持ちを、よく理解してくれている」「一緒に頑張れるかもしれない」、面接後に、前向きな気持ちになれるようにしたい。
なぜなら、お母さんのよき対応こそ、生徒の最大の教育環境になるからです。
2 母親に「ねぎらい」の気持ちをしっかりと伝える。
対応策の提案も大事、お母さんから家庭での様子を聞き取ることも大事、
でも一番は混乱しストレスを抱え込むお母さん自身に「明るさを取り戻してもらいたい」と、願うことを第一の心構えとしてほしいのです。
「ねぎらう」とは、言葉だけではありません。先生の表情や声の調子一つで、お母さんには「自分が大切にされていること:支持されている」「私の苦しさをわかってくれている」と、伝えられると思います。
若い先生方は、自分自身の指導経験不足を不安に思うかもしれませんね。しかし、何か励まさなくてはと、無理をすることはありません。
真摯に「お母さんの心の叫びに」耳を傾ける
これだけで「寄り添い、ねぎらう」ことに通じます。その後、素直にお母さんの「今のつらい気持ち」に寄り添った言葉かけをすればいいのです。
「心の構え」さえ整えておけば、自然とできます。
この逆の姿勢は、先生がお母さんに「アドバス」して「指導のような面接」をイメージしてください。
その指導内容が適切だったとしても、母親の心情に届かなくては意味がありません。「届かなくては、適切な指導とはいえませんよね」
3 専門的な助言を示し、方向性を確認し合う。
これを目指すためには、あくまで1と2の考え方を経て、初めて効果がでてきます。
そいて、先生方自身も謙虚に学び続ける姿勢が不可欠になります。
まずは、知識よりお母さんを迎え入れる心の構えです。
と、やさしく言葉を掛けてください。学校に行きたくない中学生の対処法と保護者に信頼される寄り添い方 まとめ
【今回の記事では「学校に行きたくない中学生の対処法【実例で解説】と保護者に信頼される寄り添い方」についてまとめてみました。
不登校生徒を目の前にすると、つい「指導しなくちゃ」と力が入ります。
まず「あせらない」ことです。特にお子さんにとって最大の環境である「お母さん」を支えることがキーポイントになります。
お母さんの心情に寄り添い大切に接してください。寄り添う心を伝える工夫をしてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。参考にしていただければ幸いです。
ワダチブログは、先生方と中学生と親御さんを応援しています。各カテゴリーを重ね合わせてお読みいただければ嬉しいです。これからも、よろしくお願いします。