4月後半くらいから、いくつかの条件が重なると「熱中症」の事故例が発生します。
最近の35度を超える暑さは、命の危険を意識しなければなりません。
この記事は、大勢の児童生徒の大切な命を預かる「校長先生」と指導支援の最前線にいる「部活動指導先生方や養護教諭、学級担任の先生方」に向けて書いた、熱中症対策の実践的かつ具体的な指導項目を記した事故防止対応マニュアルです。
私は、中学校の元校長です。先生方と親御さんを応援する「ワダチブログ」を運営しています。
現役時代は、命に係わる失敗は、リカバリーできない緊張感がずっと心から離れませんでした。
そこで、事故防止に向けて万全な準備と対策のポイントをお知らせします。
- 教職員が「自分事」として熱中症対策の指導に精通すること
- これにプラスして、生徒自身が「自分の命を守る適切な行動」がとれるようにすると
- 保護者の理解と連携協力の下、家庭環境を整える条件整備
この記事で、熱中症対策の実際が詳しく理解できます。先生方と生徒に語り掛けてきた指導内容ですので、参考にしていただけたらありがたいです。
おおもとの指針は令和3年5月「学校における 熱中症ガイドライン作成の手引き」です。
>>環境省・文部科学省ガイドライン
熱中症ガイドライン2022学校対応マニュアル!生徒を守る基本的な考え方!
1.生徒の熱中症重大事故ゼロへの「基本的な考え方」
私たち教師は、「大切な子どもの命を預かっている」という意識と自覚をもつことが大切です。
教師一人一人の「子どもの命を守る」視点を「自分事」としてとらえることが体制づくりへの第一歩です。
「今までは大丈夫だった(…こんな感じの指導で何ら事故はなかった)」等と「自分の経験に固執した独自の判断」では、重大な事故を発生させることもあります。
生徒の命に係わる熱中症についても、油断大敵です。自分の経験を基準に安易な判断は、戒めなけれななりません。
- いままで生徒の重大事故の経験がないことは「たまたま運がよかったのかもしれない」という慎重かつ謙虚な姿勢をもち、中学校教育の専門家として学び続ける教師でありたい。
- 「いざ、熱中症の生徒を前にした時」…逃げない、他に判断をゆだねない、命を救えるのは私!という自分事としてとらえ「正しい知識と技能、正しい判断と救急処置」ができる教師でありたい。
全校朝会の校長講話(ネタと例文)心構えと効果的に語るポイント
熱中症ガイドライン2022学校対応マニュアル!事例から生徒を守る対応を解説
1.熱中症防止に向けた「具体的な指導の実際」
教員には子どもたちに対して、安全配慮義務があります。
万が一学校で事故が発生した場合、「学校はしっかりと落ち度なく“安全配慮義務”の下、子どもたちを指導していた」ということが問われるわけです。
つまり「~どのような計画(安全に配慮した)の下で、教育活動が行われていたのか」この視点から学校が子どもたちの命を守るために、すべきことをまとめました。
例えば、指導者のいない生徒だけの校庭外周のランニング練習など、体調の急激な変化が起こった時、発見(救急への連絡や体を冷やす等の緊急処置の遅れ)が遅れると急激に危険度が増します。
顧問の目が届く範囲内で練習内容を工夫してください。
- 一例:約20分~30分毎にこまめな水分補給と休憩(10分~15分)を入った計画づくりをしておく。(計画が紙面であり、生徒に指導済みであることが大事です)
- 運動部の活動は2時間を目安にする。スタミナを養う走りこむ練習は避け、技術系の練習を多くするなど、夏場の練習内容を工夫し慎重に考える。
- 夏季休業中の活動時間は、体育館、校庭の活動割り振りを午前中に集中させ、日差しが厳しい午後の時間帯は部活動は実施しない。
3. 活動前の健康観察、活動中の健康観察、活動後の健康観察に終わる
- 当日の体調チェックと早め早めの声かけと、事前の水分補給が鍵です。顧問の先生からの「今日の体調はどうか?」と直接の声掛け確認、一人一人への目配りが大切です。
- 「熱中症を甘く見ないこと」について、日頃からチーム全体の「基本的な知識」と「互いの健康観察への意識付け」が大切です。
事前指導として「どのような注意・指示をしたのか」がとても重要な視点です。「安全への配慮義務はなされているか」この視点から自身の指導をチェックして、生徒の状況把握に努めてください。
顧問の先生は、活動中の生徒に意識が集中し、見学者への注意が散漫になりがちです。絶対に見学者を一人にしない(視界の中に入れておく)ことが大事です。
夏季休業中は、その場で見学させるのではなく、冷房の効いている保健室や職員室の先生方の協力を求めすぐに対処をすることが肝心です。
下校途中に生徒が一人で倒れこんでしまうととても危険な状況になります。練習後の健康観察の声掛けは大変重要な指導事項です。
熱中症ガイドライン2022!健康安全指導の充実と家庭との連携~事故を減らす文化~
大切なことを繰り返し話して、生徒の意識を高める必要があります。
特に、充分な睡眠時間の確保、正しい食事、特に朝食をしっかりと食べて登校する等、日常生活を整え体力を維持することを継続して指導してください。それによって、生徒自身の健康管理の能力を高める指導を心がけてください。
家庭に協力を呼びかけましょう。
「自分の命は自分で守る」を意識させ、「規則正しい家庭生活、十分な睡眠、朝食と塩分、体調の判断等の観点から、日頃より指導を繰り返してください。
互いに健康状態に関心を持ち合う温かな雰囲気があれば、熱中症を防ぐ下地となります。具体的には、部長等の上級生には常に「1年生に積極的に声をかけ」互いに仲間を大事にする雰囲気ある人間関係を「生徒とともに」目指してください。
知識面としては、自己チェックの視点として、めまい 筋肉痛 筋肉がぴくぴくと痙攣 はきけ 嘔吐 皮膚が赤く乾いている等全身の倦怠感(だるさ)や吐き気・頭痛などを伴うこともあります。
熱失神では、脳への血流が損なわれるために、一時的に気を失い突然倒れるようなケースが見られます。
顧問は、家庭との体調等の連絡を取り合い、安心安全な活動を心掛ける。
熱中症ガイドライン2022!応急処置と救急車要請のタイミング
倒れた時はすでに限度を超えている可能性が高い。
症状「応答がない、自力で水分補給ができない」この時点で、救急車を要請します
- 直ちに、脇の下頸動脈、足の付け根等リンパに氷をあて冷やす等、救急車到着まで適切な処置を行う。
- 呼吸ナシは、AEDをためらわず使用する。
- 体調を崩した時や怪我をした時は、必ず保護者と連絡を取り合う。
部長・部員の救急処置への意識を高められるよう指導していく。
熱中症ガイドライン2022!生徒を守る教師の健康管理と感性
保護者のわが子への心配を慮る。特に土日の練習日、顧問は天気予報等をよく把握し判断する。35度を超えたら原則、「練習なし」しっかりと見極め判断する。危険な暑さに適切に対応する。
全生徒を守ることを意識して協力し合う。
気になることを声にしてください。事故の未然防止に繋がっていることを理解する。
熱中症対策ガイドラインを活かした対応!熱中症関連等で救急車を要請した事例
5つの事例を紹介します。
事例1 急激な気温上昇5月6月頃、暑さに慣れていないことによる熱中症
保健体育の授業中(5月上旬)中学2年生男子が熱中症で救急搬送
(原因は、高温そのものより、「不登校気味で普段体を動かす習慣が減っていた」「本人が運動が好きで、久しぶりの授業に頑張って取り組んでいた」ため、暑さに体が慣れておらず、汗をかいていない状態で体温が体内にこもったケース)
教訓…体育教師と学級担任等、深い生徒理解と教員同士の一言の会話に自己を防げるかかわりがあったかもしれない。
事例2 生徒の体調不良が原因、部活動に参加したことによる熱中症
部活動の熱中症は多くの搬送例がある。校内では(卓球部、吹奏楽部)、体育館では(バスケットボール部)、校庭では(陸上部、軟式テニス部)等が多かった。
傾向は、顧問の先生が熱心な指導をしており、普段から生徒たちは力を抜かず真剣に取り組んでいる部に発症例が多かった。
顧問は、夏場の活動の危険性を十分自覚しており、休憩時間を適切に挟んで活動しているにもかかわらず、発生している現実がある。
多くの場合は、本人の体調が充分に整っていないところが原因である。例えば、朝食の有無・内容、睡眠時間の状態等が考えられる。
教訓…活動前の健康観察に十分時間をかけることと、活動中のこまめな状況把握が求められる。生徒本人の「熱中症への正しい理解と家庭生活での自覚」が求められる。家庭といかに連携を深めるかが課題である。
事例3 職員が現場で判断し、携帯で救急搬送を依頼したケース
部活動で放課後、校庭の外周を知っている時、その場で倒れ込んだ中学1年生男子。たまたま通りかけた地域の方と近くにいた先生(顧問ではない先生)が駆け付け、その場で「状況判断」して救急車を要請。その後、職員室への連絡が入ったケース。
教訓…一定の救急要請の判断基準を統一していたため、状況に応じては「教諭が要請することを事前に共通理解していた」その後、校長が駆け付け状況を確認した事例。
事例4 教師の勘
夏季休業中、通常と比べ「何か変」という教師の感覚が事故を防いだ事例。
夏季休業中、朝の8時30分、部活動開始の挨拶をするとき、いつもの部長の姿が見えず「部員に確認したところ、「見かけたけど・・・」と返答。この段階「いつもと違う…」で、すぐ捜索を始めました。(熱中症は予想していませんでしたが)周辺を探したところ、物陰に倒れ込んでいたところを発見。すぐに救急搬送を要請しました。原因は、熱中症。(家庭と確認したところ、前日父親から怒られ食欲がなく寝不足が重なり体の不調が熱中症を誘発)
事例5 判断に迷ったが本人家族の負担を考え救急搬送を依頼したケース
熱中症で保健室で様子を見ている段階で、救急搬送するか、親に引き取りに来ていただくかの判断に迷うこともあります。一番の迷い処は、親がその後病院に連れていくレベルか、家庭で休ませておくレベルかです。病院までの移動と診察までの時間を考えて大丈夫なら、親御さんの判断にまかせ、状況に応じて救急搬送した事例もありました。
怪我の場合でも、自転車の転倒等で「目と足」「鼻と足」等怪我の個所が複数の時は、本人と家族の病院への診察負担を考え、救急要請をしました。
熱中症ガイドライン2022!応急処置と救急車要請事例 まとめ
今回の記事は、「熱中症ガイドライン2022学校の対応マニュアル!応急処置と救急車要請事例」についてまとめてみました。
実際の指導の視点をポイント1~14までにまとめました。
- 教職員が自分事として熱中症対策の指導に精通すること。
- 家庭と連携を取りながら生徒自身が「自分の命を守る適切な行動」がとれるようにすると。
この二点を始めあらゆるケースを想定して、万全な事故防止体制を築くことは、学校の使命です。
この記事で、熱中症対策の実際について理解し、指導にいたしていただけたら幸いです。